酒場に入っていくのが怖い
でも男とか女とか、そういう問題じゃなかったのだ。
家事もするし趣味もある。それが何だというのだろう。結局「何かができる私」ってものに頼って生きているんである。
仕事ができる私、家事ができる私、ヨガができる私、だから人とは違う私……結局肩書きに頼っているのと同じことである。
でもそんなものは酒場では通用しない。
店に入っていきなり、名刺を配ったり、ヨガの先生の資格持ってるんですなんて説明するわけにはいかない。
ただの私。何者でもない私。そうなったらどんな顔をして酒を飲んだらいいのかもわからない。
だから私は酒場に入っていくのが怖いのだ。
※本稿は『一人飲みで生きていく』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
『一人飲みで生きていく』(著:稲垣えみ子/幻冬舎)
一人ふらりと出かけた街でふらりと店に入り、酒と肴を味わってリラックス。そんな「一人飲み」に憧れて挑んだ修行。数々の失敗の先に待っていたのは、なんとも楽しく自由な世界。まさか一人飲みで人生が開けるとは!――アフロえみ子と一緒に冒険し、お金では買えない、生きる上で一番大事なものを手に入れるスキルまで身につく、痛快エッセイ。