30歳でアルバイト生活「高学歴の息子」
男性は、息子に修士課程修了後も就職活動を継続するよう伝えたが、その気力が息子にはなかったようだ。実家に舞い戻ってきた息子は自室に閉じこもり、外出するのは週に1〜2回塾講師のアルバイトに行くときだけ。
アルバイト料はすべて息子が小遣いにしており、借りていた奨学金の返済も健康保険料も年金保険料も親が立て替えている。
息子が実家に戻ってから数年が過ぎ、そろそろ30歳を迎えようとしているので、男性は自分ももうすぐ年金暮らしになることを考え、「30歳になってアルバイト生活では、お前も不安だろうから、地元の会社に就職することを考えてみてはどうだ」と助言した。
すると、息子は「地元の三流大しか出ていないお父さんに、東京の一流大の大学院まで出た僕の気持ちはわからない」と言い返した。
この言葉を聞いた男性は、「あれだけ息子の教育にお金をかけてきたのに、こんなことを言われるなんて」と怒りを覚えると同時に失望し、これからどうなるのかと不安でたまらなくなって受診した。
この息子も、先ほど取り上げた姉と同様に、高学歴の割に人生がうまくいっていない。修士課程修了時に就職活動に失敗し、その後実家に舞い戻ってアルバイト生活を送っているのだから、むしろ「負け組」と評するべきだろう。
だが、子どもの頃から勉強ができ、東京の名門大学の大学院まで出ている息子は、自分の現状をなかなか受け入れられない。そういう人がすがるのは結局学歴しかない。
客観的に見れば、「いい大学」こそ出たものの、「いい会社」には入れず、高学歴が高収入につながっていない息子が自己愛を守るには、目の前の現実から目をそらし、「自分は『いい大学』の大学院まで出た」という過去の栄光をプライドのよりどころにするしかない。
父親に対して学歴マウントを取ったのは一種の自己防衛という見方もできる。大学院で取り組んだ研究や学んだ専門知識を活かすことにこだわる息子にとって、それが到底できそうにない地元の会社に就職するなんて論外だ。
そのため、2度と同じことを言われないようにするために父親を見下す言葉を吐いたのではないだろうか。