「ないものねだり」にすぎない助言に…
父親の誕生祝いの席で姉が夫の学歴を見下す発言をした現場に両親も居合わせたのだから、姉の学歴マウントには気づいているはずだ。それでも姉をかばうようだったら、両親も学歴信仰に毒されている可能性がある。
父親に学歴マウントを取る息子については、同じ屋根の下で暮らしている以上、関わらないようにすることは物理的に不可能だ。だが、息子は自室に閉じこもっているということなので、できるだけ干渉しないようにするしかない。
もちろん、父親としては将来が不安でたまらないだろう。その気持ちは痛いほどわかる。それでも、「地元の会社に就職することを考えてみてはどうだ」という助言は口にすべきではない。
なぜかといえば、それができるくらいなら、修士課程修了時にある程度妥協して自分の専門分野と関係のない職種にまで選択肢を広げ、就職にこぎ着けることができたはずだからである。
現実的な妥協ができないからこそ、就職に失敗したわけで、できないことをやれという助言は、「ないものねだり」にすぎない。
姉にせよ、息子にせよ、唯一の救いは二人とも塾講師のアルバイトをやっていることだ。このアルバイトがなければ、二人とも無職のひきこもりになってしまうわけで、社会との接点としても貴重だ。
勉強ができた自分を活かせる職種なのだろうが、少子化の影響で塾の経営は年々厳しさを増していると聞く。
憂慮するのは、アルバイト先である塾の経営が行き詰まったとき、あるいは何らかの理由で契約を打ち切られたとき、学歴マウントがもっと激しくなるのではないかということだ。杞憂に終わることを祈る。
本稿は『マウントを取らずにはいられない人』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
『マウントを取らずにはいられない人』(著:片田珠美/PHP研究所)
「部下が何を言っても否定する上司」「学歴を自慢し仕事をえり好みする人」「理路整然と自分の意見をまくし立てる人」
マウントを取る人の心理を丁寧に解説した上で、現状を変えるためのヒント、さらに、「自分がマウントを取る人にならないための考え方」を示す。「マウント」をめぐる煩わしさが解放される一冊。