人間の「闇」

診療でも、相当な回数の面接を重ねたのち、ある日ようやく勇気をふりしぼって「実は、私はこんなことを思ってしまう人間なんです」と自分の闇の部分について告白されることがあります。

ご本人にしてみれば、「もしそんな自分をさらけ出してしまったら人間として軽蔑されて、もう相手にしてもらえなくなるかもしれない」という不安があって、大変な決意でのカミングアウトなのです。

しかし、そこで打ち明けられる「闇」の内容は、私からすれば決して驚くべきものではなく、人間であれば少なからず皆が抱えている類のものなのです。

本人にしてみれば「こんな闇を抱えている邪悪な人間なんて、他にはいないだろう」と長い間自身の奥底に秘めてきたものだと思われますが、数多くの方たちの「闇」と向き合ってきた私から見ると、それは決してその方だけに特異的なものではなく、人間の「闇」としてはステレオタイプなものだったりするのです。

植物で考えてみると、地中に伸びる根や地下茎にはさほどヴァリエーションがなく、むしろ地上の花々や葉、そしていずれ結実する実の方がはるかに多様で豊かですが、人もこれと同様に、その「闇」は案外似たり寄ったりのものであって、むしろ光の領域で展開される部分の方が、はるかに豊かでユニークなものなのです。

人との親密な交流がないと、うまく自分を相対化できず閉じた世界の中だけで自己評価を下してしまうために、自分の「闇」についても、それが自分だけにある特異的なものだと思い込んでしまいやすいのです。

※本稿は、『「自分が嫌い」という病』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。

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