母が旅立ったのは、翌日、コンサートが始まる2時間前のことだったそうです。僕は無事に初日を終えて帰宅。この夜、成人した息子と初めて一緒に酒を飲み、ちょっと人生哲学的な話をしながら、生意気なこと言うようになったな、なんて思ってね。娘もいつもと変わらず「おやすみ」と。

振り返ると、2日目は「なんだか妙に声が出るな」と自分に驚いていました。それに最後の曲を歌い終わったあとも、終わりたくないなと思ってしまって、アンコール曲を歌い出すまでの間がいつになく長かったんです。

それで楽屋に戻ったときに、妻から「実は昨日……」と聞かされました。一人でさぞ大変だったろうに、「よくぞ僕をだましてくれた」と、家族には感謝しかありません。

実は妻は、「本当に黙っていていいんでしょうか」と兄貴に聞きに行ったそうです。兄貴は「あの2人は一卵性親子だから、『何があっても僕に伝えるな』は、お袋が言わせているんだと思う。だからその約束を守ってやってくれ」と。「あの言葉で私も覚悟が決まった」と後日、話してくれました。

今思えば、母はきっと会場に来てくれていたんでしょうね。スタッフに挨拶をして、ファンの方々に感謝して、初日のコンサートを見て、翌日も楽しんで。

でもアンコールになったら終わってほしくないという気持ちが高まってちょっとだけ引き延ばした。それで僕の歌を全部聞いてから旅立っていった、そんなふうに思えてならないんですよ。

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