「人生いまだ志半ば、両腕に夢をいっぱい抱えて、今も走っている感じです。だって世の中、やりたいこと、知りたいことだらけ」(撮影:宮崎貢司)
「新御三家」と呼ばれ、数々のヒット曲を放った野口五郎さんは、半世紀以上活躍を続けてきました。音楽にかける情熱はとどまることを知らず、分野の垣根を飛び越えた、その先の興味について熱く語ります(構成:平林理恵 撮影:宮崎貢司)

一人一人に音楽を届けたいから

デビュー55周年という節目の年を迎え、先日、長崎を皮切りに全国を巡るコンサートツアーをスタートさせました。6月からはフルオーケストラとのシンフォニック・コンサートも始まるので、準備に追われつつ、忙しくも幸せな日々です。どの会場でも、たくさんのお客様が笑顔で迎えてくださる。これがもう何よりもありがたいです。

ここに至るまでの日々は決して順風満帆ではなかったけれど、それでも今、こうして歌い続けられている。それはひとえに応援してくださるファンのみなさんのおかげです。僕はいつだって、「この思い、あなたに届け」と願って歌っています。

まだまだ、なんですよ。人間ある程度の年齢になったら、着地点を見据えて生きるのかと思いきや、全然違いました。人生いまだ志半ば、両腕に夢をいっぱい抱えて、今も走っている感じです。だって世の中、やりたいこと、知りたいことだらけ。だからいつだってその先が見たくてたまらない。

抱えている夢についてお話ししますと、たとえば、自分の声ひとつとってもいまだ未知数で可能性がある。歌うときのキーは、僕は若い頃から変わっていません。でも、それだけじゃない。昔はこんなふうに歌えなかったなあという歌い方が、今はできるようになっているんです。

声帯って《生もの》じゃないですか。日々コンディションが異なる。一方、自分の声帯に対する理解度は、年齢を重ねるにつれ深まっているんですね。だから朝、咳払いひとつした瞬間に、その日の状態がつかめる。