現代に通じる物語
『べらぼう』は、江戸の本屋さんたちの物語です。ビジネスバトルの話だから現代で働く人にも刺さる部分がある。全く自分にないものを持っている蔦重と鶴屋が対立する形が面白い。
実は鶴屋は、蔦重ににこやかに嫌味を言いますが、嘲笑するシーンがない。蔦重のことを最初から認めていたと思っています。蔦重は人との縁や思いを大事にしている人物。一方で鶴屋は、伝統を重視して、商人として気持ちだけでは動けない部分が多々ある。
蔦重は板元としてイレギュラーなスタートを切ったからこそできるフットワークの軽さがあって、伝統に縛られずにイノベーションを起こす。鶴屋から見ると、うらやましいし妬ましい存在だった。だからこそ認めるわけにはいかなかったんです。
僕自身は、鶴屋の蔦重への思いのように特定の誰かについての思いがありません。自分以外のすべての人をどこかうらやましいと思っていて、その上で、「うらやましいと思っている自分」を許容しています。
ないものねだりや誰かをうらやむことは人間誰もがするし、きっと他の人も、ある時には僕をうらやましいと思っているのだろうと考えているんです。だから、「お互い様」だと片付けてしまう。自分にしかできないことをやるしかない。それを積み重ねた末に「風間さんみたいなやり方、すごいですよね」なんて言ってくれる人がいると、「ありがたいな」と褒め言葉をむさぼり食うように味わって、血肉に変えています。