負けたと思って
<風間さんが印象に残っているのが第20回。市中の本屋が蔦屋の本を扱えるようになったため、蔦重が鶴屋の屋敷を訪れた場面だ。鶴屋が蔦重に負けてしまった青本(娯楽本)の番付を見ているところに蔦重がやってくる。お礼を言う蔦重に鶴屋は「蔦屋さんが作る本など何ひとつ欲しくはない」と言い放った>
今まで、人がたくさんいる中で蔦重に何か言うことはありましたが、蔦重と鶴屋の1対1のシーンはほぼありませんでした。鶴屋が蔦重に告げた「蔦屋さんが作った本など何ひとつ欲しくはない」というセリフは、鶴屋の本音と建て前、笑顔と怒りがすべてひっくり返っている感じがすごく面白かったです。
台本では、鶴屋が番付をどう扱うかは書かれていませんでした。番付を閉じて目の前に置いて、「私はこれを読んでいたけれど、その上であなたに会えます。気にしていません」という表現もできる。番付を隠すのはある種の負け。迷いましたが、「負けだろう」と思って番付を隠しました。 「負けた番付を見ていたことを蔦重に見られたくない」という気持ちの方をチョイスしました。 ただ、負けたといっても、「頑張っているベンチャー企業」と見ていたのが、「鶴屋と肩を並べるラインまで来た」という認識になったということです。
地本問屋の仲間で、西村屋与八役の西村まさ彦さんとは、板元としての耕書堂の立ち位置について話しました。西村さんからは、耕書堂は快進撃だし、警戒するのはわかるけど全国に販売網を持っている鶴屋たちが脅かされるほどかと言ったら、まだ焦るタイミングではないと言われて。「そうだよなあ」と思いました。
耕書堂はこれから伸びてくると思う。けれど、今でいうなら、あくまで東京で面白いと話題になってメディアに取り上げられ始めた本屋さんくらい。多分年間総売上みたいなものでいうと、話にならない状態だという認識も大事だなと思いました。まあ、西村屋さんが鶴屋の言うことを聞いて、吉原細見を大事にしてくれていればね、(耕書堂の快進撃も)ずいぶん違ったんですけどね(笑)。