自分を苦しめるこだわり

「こだわり」には肯定的なニュアンスもあるが、「ほかの選択肢を選ぶ度胸がない」ということでもある。もっと言えば、実はさほどのこだわりはなく、単に別のものに踏み出せないだけかもしれない。だから同じもの、同じことを繰り返す。

外出時はスーツにネクタイと決めていた人がネクタイなしで外に出ると、なぜか不安になってくるという。自分らしくないのではないか、みっともないのではないか、この姿を見た人は怪訝に思うのではないか……そんなことを想像するようだ。

『70すぎたら「サメテガル」: 「老害」にならない魔法の言葉』(著:樋口裕一/小学館)

定年退職を機にきっぱりとネクタイをやめたのなら、踏ん切りがつくかもしれない。でも退職後も何日かネクタイ姿で外出したりすると、スタイルを変えるタイミングを失って、漫然と続けることになる。スーツとネクタイに限ったことではなく、すべてにおいてそのような心理が働くといえるだろう。「本当の自分らしさ」を保つために、あるいは自分が壊れるのを恐れ、それまでのやり方、考え方にこだわる。

好きでネクタイ姿を続ける程度なら、そのこだわりが悪いことだとは思わない。しかし、こだわるあまり、現在の何かを犠牲にして自身を苦しめているのであれば、本末転倒というしかない。