話し下手の私が「話し方」を書いた理由

人間は可塑性(かそせい)を備えている。いつまでも同じ人間ではなく、成長や経験、あるいは自身の心境やこだわりの変化によって“別の人間”になれる。多くの人が「自分はこんな人間だ」と思い、それを通していこうとしているが、それは思い込みだ。自分には絶対できないと思っていたことでも、実際にやってみると難なくこなせたりもする。

私自身のことでいえば、きわめて内向的で恥ずかしがり屋で、目立つことは嫌い、人前で何かするなんてとんでもない─―そんな人間だと思っている。だから、普段は引っ込み思案で、目立つことはしない。

(写真提供:Photo AC)

私が最初に少しだけ世の中に知られるようになったのは、予備校の「カリスマ小論文講師」としてだった。食べるのに困って予備校講師の募集に応募した、という経緯だったのだが、人前で喋るのが大の苦手であった私に予備校講師が務まるとは思っていなかった。

ところが実際にやってみたら、私の指導法は評判となり、参考書の執筆依頼が次々と来る。いつの間にか「カリスマ講師」と呼ばれていた。そうなっても人前で話すことは苦手だったのだが、だからこそ周囲の人々の話し方に関心を持って観察するようになった。その観察をもとに2004年に『頭がいい人、悪い人の話し方』という本を出した。するとそれが250万部を超え、翌年の年間ベストセラーになった。