やがて来るそのときのことを思うと……
パチンコ通いはともかくとして、地方へ行けば行くほどバスなどの公共交通機関がない地域も多く、タクシー不足が叫ばれている昨今、運転免許証を返納するしないは、生活に直結するだけに悩ましい問題だ。
自身が運転免許証を返納しなければならなくなったとき、さてどうするのか。
あのスーパーまでは歩けるけど、あの家電量販店まで歩くのは無理だろう。家の近くに歯科と内科のクリニックはあるけど、耳鼻科と眼科は遠いよなあ……。
やがて来るそのときのことを思うと、切なくなる。
「ウチの姑は、驚くほどありがとうを言わない人だったのよね。しかも、あなたは次男の嫁だからと言われ続けて。子どもたちへのお年玉やお祝いごとも、長男一家と差を付けられて。私が何か言おうものなら、『あなたの指図は受けない』って言い返されて。あー、そうですか。だったら好きにしてくださいって。私からは何も言わなくなって。でも、介護が必要になったら、近くに住む私が駆り出されて。あまりに腹が立ったから、そのことをケアマネさんに愚痴ったら、
『実際に介護した人はお葬式で泣かないんですよね』って言われて。昨年、一人で出掛けた先で転んで大腿骨を骨折したのをきっかけに急に弱って亡くなったんだけど。ケアマネさんが言ったとおり、お葬式のときも泣けなかったのよね。ホッとした気持ちのほうが大きかったから。でも、たまにしか顔を出さなかった義妹は棺にすがって号泣してて……。それはそうでしょうよ。あなたはいい思い出しかないんだからって。声には出さなかったけど、そう言いたくなったわよ」
同級生は、しみじみした様子でそのときのことを振り返っていた。