「本当は」の意味

でも、小林先生が私に声をかけてくれるとき、単に「きみは、いい子なんだよ!」ではなく、いつも「本当は」という言葉がついていた意味合いに気づいたのは、ずっと後年、私が大人になってからだった。つまり、校長先生は、「きみの普段の言動を見て、きみをいい子だとは思わない人も中にはいるかもしれないけれど、いや、きっといるんだけど、僕は、きみはけっして悪い子なんかじゃない、本当はいい子なんだと、わかっているからね!」と伝えようとしてくれていたのだ。

小林先生のそんな言葉がなければ、ひょっとしたら、私は心のどこかに「どうせ、自分は理解されないんだ」という、疎外感みたいなものを抱えこんだまま、育ったかもしれなかった。先生のおかげで(「本当は」の部分には、まだ、まったく気づいていなかったにせよ)、私は自信を持って大人になれたように思っている。

私は小林先生に、「私が大きくなったら、トモエの先生になってあげる」と約束していたんだけど、私が大人になるよりも早く、トモエ学園はアメリカ軍の空襲に遭って、焼け落ちてしまった。

 

※本稿は、『トットあした』(新潮社)の一部を再編集したものです。

【関連記事】
『徹子の部屋』50年目に突入。黒柳徹子「今まで〈お休みにしたい〉と思ったことは一度もない。番組が始まる前に出した、3つの条件は…」
『徹子の部屋』50年目へ。黒柳徹子「毎年8月は、ゲストに戦争体験を語ってもらう。平和の実現が、テレビの大きな使命のひとつだと思っているから」
黒柳徹子「テレビ黎明期の生放送の経験が、ユニセフの活動にも活かされた。誰もが自由で、戦争のない世界を」

トットあした』(著:黒柳徹子/新潮社)

トットはあの人達からこんな言葉を受け取って、生きる支えにしてきた――。

向田邦子、渥美清、沢村貞子、永六輔、久米宏、飯沢匡、トモエ学園の小林校長、そして父……幼い頃から人生のさまざまな場面で、黒柳徹子さんが大切に受け取り、励まされてきた「24の名言」。

そんなかけがえのない言葉たちで新たに半生を辿り直した、待望の書下ろし長篇エッセイ!