演劇の世界で時代を切り拓き、第一線を走り続ける名優たち。その人生に訪れた「3つの転機」とは――。半世紀にわたり彼らの仕事を見つめ、綴ってきた、エッセイストの関容子が訊く。第41回は喜劇俳優の大村崑さん。86歳の時に本気で筋トレ始め、「今が一番幸せです」と語るその理由は――。(撮影:岡本隆史)
会ったその日にプロポーズ
ところでかなり昔、ある女性誌にキンキン(愛川欽也さん)の「家内でございます」という連載があり、キンキンと一緒に大村夫妻の大阪・豊中市のお宅を訪問。奥さまを「瑤子さん」と〈さん〉付けで呼ぶのが鮮烈な印象だった。
――そうでしたか(笑)。その瑤子さんが「弟が崑さんのファンなんです」ってテレビ局にサインをもらいに来た時に、一目惚れ。会ったその日にプロポーズして、ほどなく結婚。その翌日、「これからあなたをどう呼べばいいですか?」って訊いたら、「瑤子さんと」と言うので、それ以来ずっと、今でもそう呼んでいますよ。
それで第3の転機ですけど、僕のぐるりを男から女に入れ替えたことですね。これも一つには瑤子さんのため。楽屋や事務所に来て、「お花が水欲しいって言ってるよ」とか言わずにすむようにね。
周りを女の子に替えたら、たとえばその日楽屋に来るお客さんからのお花をちゃんと鏡台の横に置く。で、お帰りになったらエレベーターの前に戻す、とかね(笑)。よく気がつく。
とにかく人気絶頂の頃は道頓堀の中座の楽屋だけじゃ納まらないくらい花が仰山来ましたからね。つまり、マネージャーから何から全部女の子に変えたのは芸能界で僕が最初ですよ。だから見てください。今は歌手の人、俳優さん、ほとんど女の子がついてますから。