長い台詞を全部母音で……

鹿賀さんが大きく羽ばたくことになる四季の大人向けミュージカル、当時のタイトルは『ロックオペラ イエス・キリスト=スーパースター』(1973年)。中野サンプラザのこけら落とし公演だった。

――そうなんです。当時はジーザス・クライストと言っても通じなかったみたいですね(笑)。僕はイエス・キリスト役でした。最初はヘロデ王役かなと思ったんですが、それは外部からオーディションで入って来たいっちゃん――市村正親ですけど――が演じて。彼とはそれからはずっと、友だちづきあいをしています。

初演の時はジャポネスク版で、歌舞伎のような衣裳、白塗りに隈取りをしたりして、かなり話題になりましたね。3年後には原作に近いエルサレム版、その翌年に初演をもっと練り上げたジャポネスク版と、ずいぶん再演しました。

その後、四季では『ウェストサイド物語』『カッコーの巣をこえて』とかに出ましたね。

浅利さんにはとっても可愛がっていただきました。研究生の時に一緒にゴルフを始めたりなんかして。劇団四季の山荘が長野県の大町にありましてね、僕ら六期は全員が勉強を兼ねて宿泊して、長い台詞を全部母音で言わされたりするんですね。

たとえば「こんにちは」なら「おんいいあ」。つまりこの訓練をすると発声がよくなるんですよ。「母音でやるとはっきりします」だったら、「おいんえあうおあっいいいあう」。はっきりと言葉が伝わるようになる。

それで合宿の時、「明日はこの長い台詞を母音で言え」って言って、みんなが「えーっ!!」ってなって。徹夜で稽古する人間もいるんでしょうけど、浅利さんが「おい丈史、明日ゴルフに行くぞ」なんて言ってね。

それで朝、ゴルフやって帰ってきて、午後からは母音で芝居の稽古があったんですけど、なんか僕、できたんですよね。