「背中の老い」がもたらす悪影響

日本老年医学会は、「脊柱後弯角が大きい高齢者は、要介護状態になりやすく、ADL(日常生活動作)の低下が顕著になる」ことを指摘し、「とくに、コブ角(脊柱のなかでもっとも傾きのある上方の骨と下方の骨それぞれから直線を伸ばし、2本の直線が交差する部分の角度のこと)が40度以上後弯している高齢者は、転倒→骨折→入院→寝たきりという流れに陥るリスクが高まる」という見解を示しています。

また、アメリカの老年医学誌『ジャーナル・オブ・ジェロントロジー』に2005年に掲載された論文には、「胸椎の後弯が強い女性は、歩行困難やADL制限の発生率が高いため要介護状態に移行しやすく、とくにコブ角が標準より大きいグループの約7割の人は、移動能力の制限のリスクが約2倍になった」という研究結果が記載されています。

脊柱後弯は、その度合いが大きくなればなるほど、要介護状態になるリスクを高めてしまうのです。

人間は年を重ねると、筋力、視力、判断力などが衰え、転びやすくなります。

そして、脊柱後弯があるとそのリスクはさらに上昇することが、さまざまな研究によって明らかにされています。

「背中の老い」がもたらす悪影響は、内臓疾患だけにとどまりません。日常生活に支障をきたし、スムーズに歩けなくなり、転倒とそれにともなう骨折、場合によっては寝たきりという、考えたくもない悪循環をまねいてしまう可能性を高めるのです。

「そんなに恐ろしいこと言わないでよ、先生。寝たきりなんて嫌だから、ちゃんと今日から運動します。はい、約束します。若く見られるのもいいけど、何よりまだ死にたくないから(笑)」

みなさんも小林さんに倣って、高齢者の転倒の危険性と深刻さに、しっかり意識を向けるようにしましょう。

そして、転ばない対策、ひいては背中の老いの予防に、意欲的に取り組んでください。

 

人は背中から老いていく』(著:野尻英俊/アスコム)