畑から食卓まで
料理を作るようになると、私は自宅の庭の畳5、6枚ほどの土地に、サラダ菜やトマトやミョウガなどを植えるようになった。海の傍の別荘はもともと農村だったところなのでそこには蜜柑の木を植え、100平米近い畑を作ってタマネギやジャガイモなどを採るようになった。採りたてのタマネギを、かつおぶしのお出汁の中で、姿のまま煮るお料理などは、手抜き料理の最たるものだが、食材の新しさでお客さまに評判がよかった。
私は世の中のすべてのことの源から最後まで見たいと思ったのだ。
アフリカで親子丼を作ると言えば、自分で手を下す技術はないが、作業は生きた鶏を殺すことから始めねばならない。野菜も同じであった。種を蒔き、間引き、収穫する。自分でやってみて初めて、私は農を業とする人たちの仕事と技術に改めて深い尊敬を覚えた。マーケットの冷蔵された場所にラップに包まれて売っている野菜や肉だけを見ていると、自分がこの地球の営みの中に組み込まれて生かされている仕組みがわからないような気がした。
その流れが生命そのものなのであり、私は生命の破片一つもムダにはしたくないような気がして、いよいよ「手抜き料理」に励むようになったのである。