1945年8月15日の終戦から、2025年で80年を迎えます。その後、国防のために創設されたのが自衛隊ですが、元・海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)である香田洋二さんは、「規律一辺倒の自己批判なき現在の自衛隊に一抹の不安を覚える」と語ります。今回は、香田さんの著書『自衛隊に告ぐ-元自衛隊現場トップが明かす自衛隊の不都合な真実』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。
戦史を学ばない海上自衛隊
先の大戦で、旧海軍はいくつもの失敗を犯している。例えば、日本が勝機を逸したミッドウェー海戦はいまだに失敗の理由について議論が分かれるが、海上自衛隊あるいは防衛省が組織として検証したことはない。
ミッドウェー海戦については、「ただ運が悪かった」という議論もあれば、「南雲忠一司令長官の判断が悪かった」という議論もある。そのような中、ミッドウェー海戦をライフワークにしていたノンフィクション作家の澤地久枝の仕事は、私と軍事に対する立場は大きく異なったが、内容は本当に素晴らしいものであった。
ただし、生き残った人たちの戦後の証言を中心にストーリーを組み立てれば、そこにはどうしても自己弁護が入りこむ。後付け、言い訳が交じった生存者の証言が妥当なのかどうか、プロとして最も冷静に評価できるのは海上自衛隊なのではないだろうか。戦時中の兵士らの証言には、私にいわせれば首をかしげたくなるようなおかしな証言もあるのである。
防衛省や海上自衛隊は、そうした点にも配意しつつ、シミュレーションによりミッドウェー海戦を再現し、その反省点を検証するという作業が必要なのだ。軍事の失敗は、戦闘組織のプロが、専門的技法を用いなければ分からないこともあるからだ。
だが、防衛省や海上自衛隊がそうした作業を行ったという話は、ついぞ聞いたことがない。戦後の平和主義の影響で、組織をあげて大戦の研究をすること自体が悪いことのように思われていたのも理由かもしれない。自衛隊や防衛省は、旧陸海軍と違う組織だから、そういう作業は行わないという建前があるのかもしれない。防衛研究所が戦史として研究することはあっても、軍事的な見地から十分な検証が行われているとは言い難いのだ。