「五省」と呼ばれる教訓
防衛省・自衛隊による先の大戦の検証は十分ではなかったし、海上自衛隊の場合は、海軍善玉論にも影響され、旧海軍の伝統をそのまま引き継ぐことが良しとされているところがある。そのことが如実に示されているのが、旧海軍から海上自衛隊に引き継がれている教訓だ。
「至誠に悖(もと)るなかりしか
言行に恥づるなかりしか
気力に欠くるなかりしか
努力に憾(うら)みなかりしか
不精に亘(わた)るなかりしか」
これは海上自衛隊の幹部候補生学校で、今でも掲げられる「五省」と呼ばれるものだ。幹部候補生学校とは、防衛大学校や一般大学を卒業した者及び部内選抜隊員が幹部海上自衛官としての門を叩く学校である。広島県の江田島にあり、海上自衛隊幹部としての基礎を叩きこまれる。
私は五省の内容がけしからんと言っているわけではない。むしろ、私も幹部候補生学校の生徒として五省を暗唱し、海上自衛官として胸に刻み込んできた。
誠実さや真心、人の道に背くところはなかったか、発言や行動に過ちや反省するところはなかったか、物事を成し遂げようとする精神力は十分であったか、目的を達成するために惜しみなく努力したか、怠けたり面倒くさがったりしたことはなかったか。海上自衛官ならずとも、こうした自問自答を繰り返すことが、あらゆる目的を達成する一番の近道であるとも思う。