人事の2年ルール
彼が言った通り、海上自衛隊では防衛部長が2年前後で交代する。日本の防衛力整備は5カ年計画で行うのだが、計画を策定したその日から改定作業が始まる。ということは、次の計画を定める5年後までに2、3人の防衛部長が一つの計画の責任者として携わることになる。この人事システムにドイツ海軍の防衛部長は驚いた。
駆逐艦を1隻作るのに5年はかかる。この責任者が2年交代となるのであれば、最初から最後まで一貫して面倒を見る人間がいなくなる。彼は防衛部長に就任する際に、ドイツ海軍の上官である海軍総監からこう告げられたそうだ。
「君は退官するまで防衛部長をやるつもりで勤務してくれ。計画策定後は後の人間がちゃんとやるから、計画策定までは責任をもってやってくれ」
ドイツ軍と言えば、陸軍をイメージする人が多いだろうが、海軍も重要な役割を果たしてきた。冷戦時代はバルト海でソ連海軍の進出を体を張って止める任務が与えられていたからだ。そのような重い任務を担う以上、一人の責任者が一貫して計画を策定し、新たな計画は別の人間一人が責任を持つ、というのがドイツ軍にとっては常識なのだ。
これに対し、日本の場合は5年間で2、3人が防衛部長を務め、それぞれのバックグラウンドによって、方針が右に行ったり、左に行ったりすることになりかねない。ドイツ海軍は自分たちの戦闘力をいかに高めるかということに主眼を置き、海上自衛隊は「2年で交代」という人事システムを優先しているということになりはしないか。私はドイツ海軍防衛部長との会話から、言いようのない焦りを感じた。