キャリアアップのための腰掛けポスト
海上自衛隊で重視されるのは、実任務の経験ではない。東京・市谷で背広組の防衛官僚にうまく説明できるとか、マスコミ対応がうまいとか、そんなことが評価され、自衛艦隊司令官や海上幕僚長への階段を登って行くことが多い。米海軍は、「こいつらは本当に戦闘組織なのか」といぶかしく思うのだ。
もちろん、出世する自衛官にも艦乗りの経験がある者もいる。とはいっても、戦闘組織の中枢である護衛艦隊に所属する艦ではなく、地方配備の沿岸作戦を主任務とするような艦に乗り、大過なくすごした後に東京・市谷のデスクワークに戻っていくというケースが散見される。
護衛艦隊所属の艦艇は、有事を想定し、ギリギリの状況で火のような錬磨を続けなければならない。そうなれば事故も起きやすいし、ストレスがかかった隊員が不祥事を起こすかもしれない。そんなことが起きれば、艦長の経歴に傷がついてしまう。将来有望な海上自衛官を「キズ」つけないために地方配備の艦に配属する慣習は、そんな配慮が働いていると邪推したくもなる。
批判を承知でいえば、警察庁のキャリア官僚も似たような人事の慣習があると聞く。つまり、警察官僚がトップに上り詰める過程では、どこかの都道府県警の本部長を務めることが必要になるのだが、将来を約束されたような優秀な警察官僚が配属されるのは、事件が少なく、捜査ミスも起きにくい都道府県に配属されると聞く。真偽のほどは不明だが、これと似たようなことが海上自衛隊でも行われているのだ。
部隊の指揮官をキャリアアップのための腰掛けポストのように扱う風潮が蔓延すれば、現場の士気は著しく低下することになる。だからというわけではないだろうが、私の現役時代にも、防衛大学校を出た若手幹部の中には不心得者もいた。