仲良しクラブの人事のようなことをしている

実情はこうだった。本来は本命の将官がいたのだが、その人物は海上自衛隊ナンバー2の自衛艦隊司令官に就任するには「まだ早すぎる」という話になったのだ。このため“ワンポイントリリーフ”として本命の1期上の将官が自衛艦隊司令官に就任し、本命が“適齢期”になった10カ月後に交代となったというわけだ。

私はこうした事情を苦心惨憺(さんたん)しながら英語で説明した。だが、米海軍の友人は、私の説明を聞いても「お前は何を言っているのだ?」という感じで全く理解してもらえない。これは英語が通じていないという問題ではない。言っていることがあまりにも軍隊の常識を逸脱しているので理解してもらえなかったのだ。

海上自衛隊は戦闘組織であり、自衛艦隊司令官は戦闘組織としての中枢の中の中枢だ。その自衛艦隊司令官の人事を、まるで役人の人事のように扱っていることが、米海軍の友人には理解できなかったのだ。

海上自衛隊と米海軍は切っても切れない友情で結ばれている。それはバーベキューやゴルフだけで育まれた友情ではない。一緒に戦うことを前提とした友情なのだ。この自衛艦隊司令官の人事により、米海軍の海上自衛隊に対する信頼感は確実に曇ったと思う。

自衛隊では「常在戦場」という言葉がよく使われる。民間の組織でもよく聞く言葉であろう。だが、この言葉には気を付けたほうがいい。「常在戦場」と言っていれば緊張感を持つことになると勘違いしてしまうからだ。常在戦場を旨とするはずの海上自衛隊が平時色に染まり切って仲良しクラブの人事のようなことをしている。私は恥ずかしかった。