母はなにをすればいいのだろうか
いままでパートナーにとって、妻である私になにを言われても、それは女の意見でした。私が脱毛をはじめても「それは女性だから」。美容院に行っても「コスパ悪い」。
だって、べつにイケメンになりたいわけじゃないし、モテたいわけじゃないし、もう結婚してるし、仕事してるし、これでいいのでは?
はげてなければ、太っていなければマシなほう。自分は標準で平均なんだ、というなにかよくわからない絶対的な基準があったわけです。私にとってみれば、そこまで確固たる信念のように思い込める理由がよくわからんのですが。
それが、身近にいる自分とよく似た、しかし別個体である息子が、同じくらいの手間で、同じくらいの価格帯のものを選んで身につけているにもかかわらず、自分よりはるかにおしゃれ的なことに関心を払い、実際おしゃれである。なおかつそれを「息をするように選んでいる」ということに中年は衝撃を受けたらしい。
おもしろいな、と思いました。
この話は、だから女の意見は正しい、女の言うことを聞け! みたいな話ではありません。私と25年間ずっといても気づかなかったことに、息子相手なら気づくのか、へーなんでだろう、と興味深く発見したわけです。
そしてこうも思いました。
突然スキンケアに目覚めた高校生とおじさんのために、この母はなにをすればいいのだろうか!!
重課金はできないが、同じく美容と資金の問題に長年悩みながら取り組んできた先人として、できることは協力するぜ新兵! という軍曹の気分なのです。おわかりいただけるだろうか。
いやまあ、おじさんだろうがおばさんだろうが、私のようにもう半世紀近くも生きていると、憎しみとか性差別とか格差とかいろんな問題はさておき、
「よく生きてきたね……」
みたいな、戦場をともに駆け、大不況という銃弾の雨をくぐりぬけ生き残った老兵の同志、みたいな心持ちになるものなのです。
だから、いまセルフケアに目覚めたおじさんの背中を、できるかぎりそっと押してあげたい。だってこの辛くてしんどい世界で、みんなよく生き残ってきたと思うから。
※本稿は、『父と息子のスキンケア』(早川書房)の一部を再編集したものです。
『父と息子のスキンケア』(著:高殿円/早川書房)
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