◆暗い曲にこそ、この人の真骨頂がある
せっかくの大作曲家ですから、影の部分ばかりじゃなくて、光の部分もお話ししましょう。
100人の方々に「モーツァルトの音楽の印象は?」とたずねたとしたら、おそらく8〜9割は「モーツァルトといえば明るい」とか、「軽やか」というような答えが返ってくると思います。たしかに僕もそう思うんですが、石井観としてはモーツァルトの真骨頂は短調の作品にあると考えています。
モーツァルトの作品は器楽曲からオペラまで無数にあるので全制覇するのは大変ですが、こういう視点から短調の作品だけを抜きとって聴いてみてもおもしろいと思います。ピアノ協奏曲や交響曲の一覧を見ると、実際、短調の曲は本当に数えるくらいなんですが、そこに人間の悲哀のすべてが凝縮されているように思えるんです。
「あんなふざけた手紙を書いた人間がなぜ?」とも思うんですが、嘆きの感情を書かせたら、天下一品。まさしく、そういう矛盾こそが天才たる所以のような気がするし、魅力的なんですよね。