(写真:stock.adobe.com)
「ぐっすり眠れないと健康に悪いのでは?」と不安に感じているあなた。もしかすると眠りに対する思い込みや誤解があるかもしれません。そこで世界的な睡眠学者であり、ノーベル賞候補ともいわれる柳沢正史先生に話を聞きました(構成:山田真理)

現役世代は「睡眠不足」、シニアは「不眠」が悩み

昨今、日々の睡眠不足が借金のように積み重なる「睡眠負債」という言葉が、注目を集めました。その背景には、私たち日本人が世界で最も寝不足であるという問題があるでしょう。

健やかな睡眠は健康にとって大事な要素ですが、実は年齢によって悩む内容が変わってきます。眠る時間が十分に確保できない睡眠不足は主に仕事や家事に忙しい現役世代の問題。それがシニア世代になると圧倒的に増えるのが「眠ろうとしても眠れない」という不眠の訴えです。

加齢とともに眠ることができる時間は短くなり、眠りは浅くなります。脳の加齢により、長く深い睡眠を続けてとる能力も必要も減っていくためで、昼と夜のメリハリがつきにくくなることも原因の一つです。

また夜中に何度も目が覚めたり、朝早くに起きてしまったりすることで「熟睡できていない気がする」という訴えが増えますが、これはメラトニンなど睡眠に関わるホルモンの分泌量の減少や、体内時計の調整機能の衰えによるもの。睡眠中の脳波を測ると、高齢者は深い睡眠が減って浅い睡眠が増えていることがわかります。眠りが浅いと、物音や光の刺激、痛みやかゆみなどの不快感、尿意などで目が覚めやすくなるのです。

もう一つ、高齢者の不眠の理由としてぜひお伝えしたいのがストレスの問題。「今夜も眠れないかも」「睡眠が悪くて病気になったらどうしよう」という不安や心配からますます眠れなくなってしまいます。睡眠が足りていないと思い込むことで寝床で過ごす時間が増え、日中の活動量や生活のメリハリが失われさらに眠れなくなることも。

こうした悪循環を止めるには、正しい知識を持つことが大切です。世の中には睡眠についての「都市伝説」ともいえる誤解が多く、特に加齢による変化については情報量が少ないのが現状です。次のページからはシニアの眠りの「正解」をお伝えします。