転職先が見つからないまま定年退職を迎えた
2021年、転職活動を始めてから約8か月後、浜中さんは転職先が見つからないまま、定年退職を迎える。退職から数か月過ぎた頃のインタビューでは、「仕事もせず、趣味などで外出することもなく、ただ家の中で過ごす時間が、定年前の『窓際』出社を思い返してしまい、つらい……」と、いつになく弱気な気持ちを漏らした。
少しずつ外出するようにもなった暮らしの変化を話してくれるようになったのは、さらに数か月ほど過ぎた22年のことだった。
「独身で同居する20代後半と30過ぎの息子2人が出勤する前に自宅を出て、近所の人たちに会わないように電車で30分から1時間ほどの距離の離れた公立図書館をはしごするような毎日です。どこの図書館にも、決まって私と似た境遇とみられる男性がいるもんですね。たまに読みたい新聞が重なって取り合ったり、譲り合ったり……。もちろん、会話を交わすことも、友達になることもありませんが……出掛けることで、ほんの少し気持ちが楽になったような気がしています」
話し始めは少し強張った面持ちだったが、終盤では穏やかな表情になっていた。
そうして、23年末、事業本部長を退いてから4年余りを経て、ようやく定年から今に至る思いを語ってくれた。
「部下からの予想だにしなかったパワハラの訴えで、執行役員も子会社社長の道も閉ざされ、会社員生活の最後でどん底を経験しましたが……今振り返ると、時代の変化を受け入れようとしなかった自分がいけなかった。脇が甘かったのですね。そして、その段に至っても、事業本部長まで務めたんだから、きっと良い転職先がある、転職で『見返してやる』などと高をくくっていた。本当にバカですね……そんな調子のいいことなどないのに……」