成果出せず「時機を逸した」
CSR担当になってから1年後、林田さんは38歳で経営企画部の課長に昇進した。CSRの担当は依然として彼と部下の2人だけ。課長ポストに就いたことで、CSRだけに専従することはできなくなり、経営陣のビジョンを具現化するための企画立案業務も並行して行っていた。
なおいっそう多忙になるなかでも、CSR担当になった初年度に取締役会で決議されたコンプライアンスと環境対応、社会貢献の3つの取り組みについて、実施計画づくりに邁進した。しかし、課長職に就いてから2年が過ぎても、なかなか思ったように計画づくりは進まなかった。一度は賛同した経営陣が一部の活動に難色を示したことが主な理由だった。
「企業イメージ・ブランド価値の向上やステークホルダーはもとより、社会からの信頼獲得や有能な人材の確保など、経営陣もCSRがもたらすメリットは理解しているようなのですが……コストがかかることが大きな壁となっていまして……。コンプライアンスと環境対応については何とかメドはついたんですが、社会貢献については全く進んでいません」
2006年、40歳の林田さんはそう話すと、眉間にシワを寄せた。社内でのCSRの推進についてネガティブな見方をするようになったのは、この頃からだったと記憶している。
そうして11年、45歳の時に元所属した広報部に異動して部次長に昇進すると同時に、CSRの担当から外れることになるのだ。その人事が自ら志願したことだったことを知るのは、部次長職に就いてから2年後のこと。「CSRが軌道に乗るのを確かめることなく離れるのは無念でしたが、経営陣が乗り気でない取り組みに力を注いでいては、その……昇進に響くので……」と、目線を合わせないようにうつむき加減で胸の内を明かした。