社会もCSRに関心を寄せるようになる

だがその一方で、企業ばかりか社会もCSRに関心を寄せるようになる。林田さんが広報部に移る前年の10年にISO(国際標準化機構)が「ISO26000」を発行し、CSR活動で尊重すべき「CSRの7原則」と「7つの中核主題*1」が設定されたこと。さらに15年に開催された国連総会で、SDGs(持続可能な開発目標*2)が採択されたことなどが背景にあったと考えられる。

林田さんの会社では16年から、工場のある地域で定期的に清掃活動を行うなど、社会貢献の活動に踏み切る。その陣頭指揮を執ったのが、かつて林田さんの下でCSRを担当した、経営企画部の部次長だった。

「成果を出せなかった私はタイミングが悪かったというか……時機を逸したようですね」

16年、広報部の部長を務めていた50歳の林田さんは、忸怩(じくじ)たる思いを語った。この時の表情がどこか吹っ切れたように見えたのは、すでに己の身の振り方を決めていたからかもしれない。

*1 ISO26000の「CSRの7原則」は説明責任、透明性、倫理的な行動、ステークホルダーの利害の尊重、法の支配の尊重、国際行動規範の尊重、人権の尊重。「7つの中核主題」は組織統治、人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画及びコミュニティの発展。
*2「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年までの達成を目指す国際的な開発目標。貧困や教育、ジェンダー平等、環境問題など、17のゴールと具体的な169のターゲットなどが設定されている。CSRは活動の対象がステークホルダーであるのに対し、SDGsは地球上のすべての事柄である点などが異なる。