「いち市民としてなら」実現できるのではないか

2022年、役職定年からちょうど1年が過ぎた時、林田さんは56歳で会社を辞めた。退職金が割り増しされる早期退職優遇制度を利用したが、他界した両親の遺産や株式投資などでもともと経済的には余裕があったようだ。無論、そうした経済面の状況をはるかに超える退職理由があったことは言うまでもない。

退職を2か月後に控えた時、林田さんはいつになく明るい表情でこう説明した。

「会社員として叶えられなかった社会貢献の活動を、地域ボランティアとして始めたいのです。CSR経営の重要性を上司を通じて経営陣に最初に進言したのは私ですし、CSR担当として経営企画部で8年間、自分としては精一杯、頑張ったつもりです。でも……世の中の潮流やタイミングのせいにしてはいけないのですが……実際には時機を逸したのは不運でした。無念、だったとしか言いようがありません。だから……企業イメージの向上やコンプライアンスなど会社の営利活動とは全く関係のない、純粋な社会貢献に取り組みたいと考えたのです。社会貢献は、会社のCSRでも最も手こずった分野でしたし……。いち市民としてなら実現できるのではないかと。これからの第二の人生、今度こそ、地域で『人の役に立つ』成果を実感できると大いに期待しています」

彼にしては珍しく、所々言いよどんだが、それは第二の人生の目標を高らかに宣言するために慎重に言葉を選ぶ間合いだったのではないかと思う。

ただ「地域ボランティア」としての具体的な活動内容は、この時点ではまだ決まっていないようだった。