(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
内閣府の「令和7年版高齢社会白書」によると、令和6年の労働力人口6,957万人のうち、65歳以上の人の割合は13.6%となっています。そうした状況について、近畿大学教授の奥田祥子先生は、「日本では急速な少子高齢化の進行を背景に、60歳を過ぎても働き続けることが可能な環境整備が進んでいる」と話します。今回は、そんな奥田先生の著書『等身大の定年後 お金・働き方・生きがい』から一部を抜粋し、ご紹介します。

定年退職後「今の仕事が最も充実」

2024年の初春、小売業の会社を定年退職後、税理士事務所に税理士補助として勤めて半年になる村木紗恵さん(仮名・60歳)は、取材場所のオープンカフェの庭先に咲き始めたばかりの梅の花を時折、愛おしそうに眺めながら、こう振り返った。

「定年まで勤めた少数派の総合職女性は口を揃えるでしょうが……私たち『均等法第一世代』は、定年後どのように道を歩んでいけばいいのか、見本とするロールモデルがないのが大きな壁です。母数は少ないながら働き続けたいと望む女性が多いけれど、会社はシニア女性のセカンドキャリア支援までには手が回らないから……悩みは尽きません。それに……今思うと40代後半から50代半ばまでは更年期も影響していたのでしょうが、抑うつ症状が断続的に出るなど、心身の不調が重なって……正直、つらいこと尽くしでした。でも、私の場合は、ちょっと変わっていて、もともと順当にキャリアを重ねてきたわけではなかったから、何とか踏ん張ることができたのかもしれませんね」

村木さんは均等法第一世代ながら、大学卒業後に一般職で入社し、29歳で転換試験を受けて総合職となった。その後、努力を重ねて実績を重ね、課長ポストに就いたのだ。

それにしても、ここまで冷静に、穏やかに振り返ることができるのは、どうしてなのだろう。ふと疑問が頭をよぎったのとほぼ時を違えず、村木さんはこう続けた。

「今の仕事が、これまでのキャリア人生で最も充実しています。まだ、税理士資格も持っていませんし、補助的な職務なので現役時代に比べると待遇は悪くなりましたが、何よりもやりがいを感じることができます。会社勤めの時も、もとはやりがいや達成感を求めていたはずなのに、いつの間にか、人事考課の結果、つまり評価のランクを上げる、少なくとも落とさないようにするとか、とかく比べられやすい入社時から総合職の女性社員たちに追いつけ、追い越せで頑張るとか……日々の業績やミスの回避に躍起になっていたように思うんです。今が本来求めていた、働くということ、何かの役に立つ、ということなのかなと……」

「今が最も充実している」という今の職務にたどり着くまで、村木さんはどのようにしてさまざまな苦難を乗り切ってきたのか。中年期以降のキャリア人生と心の機微を届けたい。