『老子道徳経』に凝縮された深遠な思想
そんな「数病の傾向」がある人にご紹介したいのが老子です。
老子は紀元前571年に中国に生まれ、激動の春秋戦国時代を生きたとされます。老子の名を、一度は見聞きされたことがあるのではないでしょうか。
しかし老子は、世界的な知名度の高さとは裏腹に、その実在さえも議論されるほど神秘的な存在です。たとえば「生まれた時から白髪の老人だった」という謎の伝説があるほど、不思議な魅力に満ちています。
そんな老子が記したとされる『老子道徳経』(単に『老子』ともいう)は、儒教の『論語』と並び、中国思想の二大古典書物として知られています。
面白いのは、この二つの作品の内容がまったく異なることです。
『論語』が人間社会での道徳や規範を重視するのに対し、『老子』は「自然に従い、流れるままに生きよ」と説いています。
実際、老子自身、社会の競争や権力争いに疲れ果て、ついには官職も捨て、隠居の道を選んだとされます。その旅立ちの際、彼が乗ったのは馬ではなく牛。ゆったりと歩む牛に揺られながら、街を去ったと伝えられています。
その姿は、老子の思想そのもの。
「急がず無理をせず、自然の流れに身を任せる」という哲学を象徴しています。
国境を越えようとした時、老子は関所の役人に引き止められました。悪いことをしたからではありません。なんと関所に老子の大ファンがいて、「どうかあなたの知恵を後世に残してください」と懇願したのです。老子は渋々ながらも筆をとりました。その結果生まれたのが、前述の『老子道徳経』です。
この書物にはわずか5000字ほどしか書かれていないのですが、その中には、人生の本質に迫る深遠な思想が凝縮されています。
老子を引き止め、文字として残すよう懇願してくれた役人には、「ありがとう」と感謝したくなりますよね。