初めて、家族の温かさに触れて
同棲3ヵ月頃に、父が「向こうのご両親に挨拶しないのか?」と言ってきて、「そうか、結婚か」と気がついた感じです。良い機会だと思い、劇団を辞める意思を父に話したところ、「本来なら止める立場だけれど、できない。お前の苦しさがよくわかるから」と理解を示したのです。さらに、再婚にも賛成してくれました。
前妻との間に生まれた、当時16歳だった娘も、「寿子ちゃんならいいんじゃない」と背中を押してくれました。
前進座の幹事長に辞めると告げたのは06年8月15日。翌日、神戸に暮らす彼女のご両親のもとへ挨拶に行きました。「劇団を辞めるので、これからどうなるかわかりませんが」と話すと、お義父さんは、「寝るところと食べるものくらいはあるから、何かあればここに来ればいい」と言ってくれた。そのとき初めて、家族の温かさに触れた気がしたのを覚えています。そして、新たな気持ちで頑張るぞと心に誓ったのです。
父は16年に他界しましたが、いよいよというときに、枕元で「親父、来たよ!」と伝えたら、うるさいと言いたげに手で払われてしまった。結局、最後の最後までぎくしゃくしていましたね。でも、今いてくれたら、聞きたいことはたくさんあります。