辻萬長さんは俳優座養成所第14期生。卒業後は劇団「仲間」を経て、井上ひさしさん主宰の「こまつ座」唯一の所属俳優となった人。

――僕が演劇部の部屋に訪ねて行くこともできないでいたら、姉の同級生が演劇部で、迎えに来てくれて。それで行ったら辻萬長が部長なんですよ。男の子は辻君と僕と二人で、あとは全員女の子でしたから、作品を選ぶのが難しかったですね。

辻君はまず役者は発声が大事だから、って。佐賀は掘割が多いんで、そのこっちと向こうで発声練習をやらされる。それも朝早く。照明のこととか録音のことまでいろいろと教えていただいて。もう生真面目で真四角な人ですからね。

それで彼が卒業後、俳優座の養成所に入ったと聞いて、あの人が行けるんなら僕も行けるんじゃないかっていう、安易な気持ちで受けたんです。無事に入れて、でもこれがまぁ、同期生がすごくてね。

原田芳雄に地井武男、夏八木勲、高橋長英、前田吟、林隆三、浜畑賢吉、小野武彦、竜崎勝……真面目な人からダメな人まで(笑)。

女優陣もすごくて、太地喜和子はすでに東映のニューフェイスで志村妙子という名で映画に出てたんですよ。だからもう全然雰囲気が違う。可愛かったし面白かったし。それに栗原小巻でしょ、三田和代でしょ。すごいですよ。選ぶ人も選ぶ人で、よく選んだなと思いました。

その頃、養成所の先輩たちが俳優座記念公演で『ハムレット』を上演していらして、仲代達矢さんがハムレット、平幹二朗さんがホレーショ、市原悦子さんがオフィーリア――ちょっと下町のオフィーリアね(笑)。

平さんとはのちに『オセロー』で共演させていただきました。栗山民也演出で平さんがオセロー、僕はイアゴーでした。