しばらくそうしていると、ヴァイオリンを弾いてみようかな、という気分になるんです。こんなふうにおのずとやる気が湧いてくるのを待つしかない。まぁ最近は、あまり長く寝っ転がっていて熊が来たら怖いなぁ、なんて思ったりもしますけどね。(笑)

庭で練習をしていると、自然が反応するというか――ピアノ伴奏もなしで弾いているのですが、まるでアンサンブルのように、「ホーホケキョ」と合いの手が入るんですよ。なんだかうれしくなっちゃって、鳥に感謝する気持ちがふっと湧いてくる。そんな感覚は、都会ではなかなか経験できません。

音楽には、庭にある落葉松の大木も反応してくれるみたい。その木にお願いごとをすると、なぜかいろいろなことがちょっとうまくいくんです。

都会で練習することもありますが、「いい音が出たわ」となかなか思えないし、音と自分の間に隔たりを感じます。でも山梨にいると、自分も、山や空、星、木と同じように地球の一部だと感じる。大自然の仲間に入れてもらえたようで、感受性が全開になるんです。

今まで味わったことのない新鮮な感覚で、こんなこともあるんだとびっくり。80歳になって新しい発見があるなんて、すごく素敵だし、楽しいことだと思います。

後編につづく

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