「名医」の概念はAIの台頭で変化を余儀なくされる
現実にもこのタイプの「名医」はいます。薬の名前や用量も、珍しい病気の種類もよく記憶していて、その引き出しからすぐ出せる医師が大きな価値を持つ時代はありました。「あ、A薬なら5mgで朝晩ね。これ、評判いいよね」というような。
これが一種の「名人芸」化し、そういった知識が多い医師ほど「名医」と呼ばれる傾向はありました。外科医の場合は、手先が器用で手技に長たけた人が「名医」と呼ばれるイメージが一般には強いかもしれませんが、実際の外科手術も外科的な知識や過去の手術経験で学んだ経験則が一般の人が思うよりもずっとモノをいう世界です。
しかし、「名医」という概念は、AIの台頭によって変化を余儀なくされます。AIは数百万の症例データから学習し、人間の医師が一生かけても経験できない量の症例を分析できるからです。
名医の知識や経験は個人に属するものでしたが、ことAIとなると、知識はシステムとして共有され、複製がたちどころに行われます。一部の恵まれた患者さんだけでなく、すべての患者さんが「名医」の診断を受けられる時代が来るのです。