登山とは人生の縮図

ところが、エベレストから下山すると、日本人女性が世界で初めてエベレストに登頂したというので、世間は大騒ぎです。隊長は「エベレスト日本女子登山隊が登頂した」と発表したにもかかわらず、マスコミ報道では私の名前が大々的にクローズアップされてしまったのです。

私はそのことに大変抵抗を感じ、メンバーの前で思いを伝えました。

「肉体的には山頂に行ったのは私かもしれませんが、私が行けたのは皆さんのおかげです」

それを聞いて、登山隊の皆さんも、私の気持ちを理解してくれたと思います。ところが、その後も、マスコミの取材や講演依頼は増える一方。最初はずいぶんためらったのですが、「山頂に行ってきた人が報告する義務がある」と隊長に言われて、引き受けるようになりました。

登山というと、何か俗世間とは一線を画しているようなイメージを持たれがちですが、さまざまな人間模様が繰り広げられるという点では、下界と変わりません。むしろ、閉ざされた環境だからこそ、人間の生の部分がむき出しになるという面もあるように思います。登山は人生の縮図であり、登山隊とはチームワークを学ぶ“学校”のようなもの。そこで務めたことが、私にとって人生の貴重な機会となったことはいうまでもありません。

※本稿は、『人生、山あり“時々”谷あり』(潮出版社)の一部を再編集したものです。

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人生、山あり“時々”谷あり』(著:田部井淳子/潮出版社)

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