個人ユーザーに支えられた

もう一つは、客層の問題だ。リーマンショックのときに、一気にいなくなったのは取引先の接待費を目的に会食をするお客さんだ。会社のお金だから金払いがよく、一晩で1人10万円でも20万円でも平気で使う。うちにももちろんそういうお客さんはいたけれど、あまり多くはなかった。

たとえば、100万円の札束を持ってきて、これ見よがしに「三國さん、これで頼むよ」みたいなことを言う、そのときどきの景気のいい業界の人というのは、常にいるものなのだが、この手のお客さんはできるかぎり断ってきた。これはバブルのときから一貫していた。

それもあって、客単価の高い高級フランス料理店でありながら、法人のお客さんは少なく個人ユーザーが圧倒的だった。

会社が経費節減をするとなれば、接待費は真っ先に削られる。でも個人のお客さんは、こういうときだからこそ家族一緒の食事の時間は大切にしようと考える。

個人のお客さんに支えられて、「オテル・ドゥ・ミクニ」はリーマンショックを乗り切ることができたのだ。

※本稿は、『三國、燃え尽きるまで厨房に立つ』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

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三國、燃え尽きるまで厨房に立つ』(著:三國清三/扶桑社)

三國は料理人として、経営者として、「ミクニ」をどう育て、グループを大きくしてきたのか。

激動の昭和、平成、令和を超えた、正面突破の生きざまに迫る渾身の自伝。