輪廻転生の宇宙観

――『赤い糸 輪廻のひみつ』には、犬だけでなく、様々な生物がご縁を結んでくれる姿が印象的です。これは台湾の死生観や動植物との距離感に関係があるのでしょうか?(※4)

アジアの文化にはきっと似たような輪廻転生の宇宙観がありますよね。それに日本にも僕が大好きな素晴らしい犬たちがいます。例えば(南総里見八犬伝の)八房(やつふさ)や忠犬ハチ公ですね!

――監督の作品は、常に「青春」というテーマが印象的です。ギデンズ・コー監督にとって「青春」とは、どのような時間や感情を指しますか?そして、その思いは『赤い糸 輪廻のひみつ』にどのように込められているのでしょうか?

老人と若者の大きな違いは、ただ単に老人はより多く年を取り、若者はより若いということだけだと思っています。当たり前のことですけどね。

でも、実際、ほとんどの人の場合、肉体の衰えと共に精神年齢も年老いていくわけではないんです。どういうことかというと、素晴らしい青春時代を過ごした人は、高い確率で精神年齢も若いまま、日々の出来事をいつも冒険するような気持で楽しんでいるのです。

――監督もですか?

ええ、実は僕自身がそうで、僕の青春は今も真夏のように続いたまま、映画製作を通じて冒険心にあふれた多くの魂たちと共に一緒に仕事をし続けています。皆、白髪が増え、腹回りの肉も厚くなってしまったんだけど、それでも青春時代の気持ちのまま、青春のすべてを撮り続けています。

ただ昔の写真の片隅に彼女の姿を見つけた時には特別な感情が込み上げて来て、泣きそうになる──。10年以上会っていないというのは、死別したのとあまり変わらないですからね。青春時代の、笑いに涙の混じった日々を懐かしむことは、青春そのもの以上に青春なのかもしれませんね。

 

 

青春が色あせない形で形作られるのはもしかしたら、その感覚や感傷だけは年齢に関わらず普遍的なものであるからということなのかもしれません。後半ではギデンズ・コー監督のクリエイティブの秘密を含めて、ジュアン・ジンシェン監督新作『ひとつの机、ふたつの制服』へも触れながら台湾映画界、今後の作品作りについて深堀します。

後編へ続く

 

(※1)1980年代初頭に起こった、台湾映画界の革新的なムーブメント。従来の娯楽映画と異なり、社会問題や個人の感情、生活のリアリティを追求した作品が多く制作され、世界的に高い評価を得た。

(※2)2018〜2025年にかけて、韓国・中国・タイ・日本……各国でリメイクされている。

(※3)『赤い糸 輪廻のひみつ』以前に、ギデンズ・コー監督は私生活のスキャンダルからバッシングを経験し、前作『怪怪怪怪物!』を製作。だが興行的にあまり振るわずだったという事情があり、「最後になるかもしれない」という切迫感に繋がるのだと思われる。

(※4)パンフレットで監督は飼い犬が亡くなり、そのこともあって、犬を登場させたという話をしている。

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映画『赤い糸 輪廻のひみつ』のポスター

赤い糸 輪廻のひみつ』
劇場情報は公式HPで確認できる。https://taiwanfilm.net/yuelao/

【あらすじ】落雷で不慮の死を遂げた青年が月老( ユエラオ)として縁を結ぶのは、 最愛の恋人のこれからの幸せ?それとも“あの”と“この世”を越えた禁断の恋?
落雷で命を落とし冥界に連れてこられた 孝綸 (シャオルン) は、同じく冥界にやってきたピンキーとともに、 月老として現世で人々の縁結びをすることになる。
ある日、ふたりの前に1頭の犬が現れ、 孝綸は失っていた生前の記憶を取り戻す。それは初恋の相手、 小咪(シャオミー) の、果たせぬままに終わってしまった“ある約束”だった。

【スタッフ】
原作・監督・脚本:ギデンズ・コー
キャスト:クー・チェンドン/ビビアン・ソン/ワン・ジン/マー・ジーシアン