(写真提供:Photo AC)
2018年にALS(筋萎縮性側索硬化症)を発症した筑波大学名誉教授・谷川彰英先生は、苦悩と絶望に追い込まれながらも、「今の自分にできること」として、その後も何冊もの本を書いてこられました。今回は、そんな谷川先生の著書『ALS 苦しみの壁を超えて――利他の心で生かされ生かす』から一部を抜粋し、再編集してお届けします。

自分の命を自分の力でコントロールできない

ALS宣告後、私は3つのことを祈りながら本を書いてきました。「私の命の存続」と「妻の無事」と「パソコンの無事故」です。この3つは私の執筆活動を支える屋台骨みたいなもので、このうちどれか1つでも崩れたら私の活動は完全にアウトになってしまうのです。その意味では、この3つは私にとっては大きな不安であり恐怖でもあるのです。本を書きながらいつも「この本が完成するまでは、何も起こらないでくれ――!!」と祈っていました。

最近とみに、自分の命が私から離れていっているように感じています。自分の命を自分の力でコントロールできないのです。ALSの場合、人工呼吸器を付けていれば延命可能だと言われています。ところがこの呼吸器が要注意なのです。気管切開(気切)したところにカニューレという器具をはめ込み、そこに「蛇腹」と呼ばれる回路を接続して空気を送るシステムなのですが、この回路がよくカニューレから外れることがあるのです。

外れると呼吸ができなくなり、死に至ります。そんなに危険なら回路をカニューレに固定すればいいじゃないかと考えるでしょうが、そう単純でないのが厄介なところです。固定してしまうと、回路が引っ張られたりよじれたりした場合カニューレが気切から外れる危険があるからです。そうなったら即死です。

結局のところ、回路が外れたら誰かに接続してもらうしかないのですが、致命的なのは声を挙げて助けを求めることができないことです。アラームは鳴るのでヘルパーが同室にいる場合は心配ないのですが、それ以外の時間帯は常にこのリスクに直面しています。