アメリカの国家安全保障を揺るがす重大な事案
1973年、旧ソ連国家保安委員会(KGB)のエージェントだったサルキス・パスカリアンが、北大西洋条約機構(NATO)に関するアメリカの分析書を、親戚から入手した事件が起こった。この事件は、冷戦期における米ソ間のスパイ活動の一環として知られ、アメリカの国家安全保障を揺るがす重大な事案として記録されている。
サルキス・パスカリアンは、レバノン生まれの人物だ。情報を引き出したサルキス・パスカリアンの親戚サハグ・K・デデヤンは数学博士で、米国防総省と関係のある契約に携わり、NATOに関連する機密など国家安全保障に関わる情報にアクセスできる立場にあった。
公開されている裁判記録によれば、サルキス・パスカリアンがデデヤンに接触し、彼が持つNATOに関するアメリカの分析書を見せるよう依頼したことに端を発する。デデヤンはこの要求に応じ、国家安全保障に関する文書約70ページを閲覧させた。その後、サルキス・パスカリアンはソ連側から提供された小型カメラを用いて文書を撮影し、その写真をソ連に転送したのだ(1)。
この事件は、まさにスパイによるヒュミントの代表的なスキームである。KGBは、デデヤンが扱う機密情報の収集を目的とし、デデヤンのいとこであるサルキス・パスカリアンに狙いを定め、籠絡。サルキス・パスカリアンにデデヤンが扱う機密情報を入手させたのである。以上のように、情報源との信頼関係がある人物を狙うことで、容易に目的の情報の獲得が実現できる。
(1)JUSTIA US Law『United States of America, Appellee, v. Sahag K. Dedeyan, Appellant, 584 F.2d 36(4th Cir. 1978)』