中国のハニートラップ

ハニートラップも、ヒュミントの一つの類型と言ってよいだろう。

ハニートラップは、基本的には恋愛関係や性的関係を用いて脅迫や罠に陥れることで、当方の意図を実現する手法である。ハニートラップで知られる代表格はKGBだろう。

KGBは美男美女の専任要員を養成し、外国の外交官や要人に接触させて色仕掛けで取り込む戦術を体系化していた。ソ連では女性工作員を「ツバメ(Swallow)」、男性工作員を「カラス(Raven)」と呼び、モスクワにある性工作訓練校で専門訓練を行っていたとの証言もある。

ハニートラップは、ソ連・ロシアだけではなく、ドイツやアメリカなど多くの国における諜報活動でも多く見られる手法だ。第二次大戦中には、イギリスが訓練の一環で新人諜報員に誘惑工作への耐性をテストしたり、ナチス・ドイツが高級娼館「サロン・キティ」を諜報目的で運営し、要人の密談を盗聴した例もある。中でも中国によるハニートラップは強烈だ。

2008年、ロンドン副市長イアン・クレメント氏(当時)が、北京オリンピック開会中に現地で開催されたパーティーで中国人女性と知り合った。その後、クレメント氏が宿泊するホテルのフロントで再会した2人は、クレメント氏の部屋で一夜を過ごした。

恐らく酒とともに薬物を飲まされたであろうクレメント氏が目を覚ました時には、書類が部屋に散乱していた。クレメント氏のモバイルから重要データがダウンロードされていた。この顛末は英情報局秘密情報部(MI6)も確認しており、本人も自認している。