セイナが行った工作はアメリカに大打撃を与えた
その後、セイナはローンツリーを「サーシャおじさん」と呼ばれるKGB工作員のアレクセイ・エフィモフに紹介した。エフィモフはローンツリーにソ連のエージェントにならないかとリクルートした。ローンツリーは、セイナとの関係を壊したくなかったために、エフィモフの勧誘を受けた。
エフィモフは、エージェントとしてのローンツリーに対し、アメリカ大使館で働く海兵隊員の顔写真を並べながら質問をした。それに対し、ローンツリーは海兵隊員らの家族構成や交際関係に加え、大使館のレイアウトまで詳細に答えたという(4)。
1986年3月、ローンツリーはウィーンにあるアメリカ大使館に異動になり、物理的にセイナと離れ離れになるが、ローンツリーはウィーンでもエフィモフと会い続けた。彼は大使館の設計図や清掃人に関する情報、軍縮に関する機密情報を引き渡した。興味深いのは、エフィモフが海兵隊員の中に同性愛者やアルコール依存者がいるかを知りたがっていたということだ。
1986年12月、エフィモフはローンツリーを別のKGB工作員ゲオルギーに引き渡した。ゲオルギーは、ローンツリーがセイナと再会できるよう手助けすることを約束しており、セイナを利用してローンツリーを引き続き運用しようとしていた。しかし2日後、ローンツリーは自責の念から米中央情報局(CIA)のウィーン支局長に自身の裏切り行為を自白、スパイ容疑で逮捕された(5)。
ローンツリー事件を受け、1987年初頭、在ソ連アメリカ大使館はワシントンとの無線通信をすべて停止、所属した海兵隊員28名が全員異動するなどした。セイナが行った工作は、アメリカに大打撃を与えた。
禁錮30年の判決を受け収監されたローンツリーは、弁護士を通じてセイナにメッセージを伝えようとしていたが叶わなかった。その内容は、「彼女を愛している。」というものであった(6)。
(4)ノーマン・ポルマー他『スパイ大事典』(2017、論創社)
(5)ADST『Caught in a Honeypot - Marine Clayton Lonetree Betrays His Country』
(6)The Washington Post『SPY FIASCO MARINE SGT. CLAYTON LONETREE WANTED TO BE LOVED IN THE WORST WAY. SO HE BETRAYED HIS COUNTRY. AND THEN HIS COUNTRY BETRAYED HIM』(1988, Feb. 6)