ハニートラップは男性への誘惑だけではない
ハニートラップという手法は、性交渉に依拠した手法だけではない。ターゲットと自然に恋愛関係を醸成させ、心の奥底から籠絡する手法でもあり、長期間の運営を果たすことが可能な有効な手法であるのだ。
また、ハニートラップは男性への誘惑だけではない。旧東ドイツ国家保安省・シュタージの「ロメオ作戦」がある。「西ドイツの国防省や外務省で働くキャリアウーマン」に着目し、ハンサムな男性工作員を次々と送り込んで、女性職員らと恋愛関係を築かせた。
彼女らにとって秘密の恋人となった「ロメオ」たちは、愛情関係を深めた後で、時には結婚の約束までしながら機密情報の提供を依頼したのである。依頼された女性は、愛する人の頼みとあればと応じ、結果的に多くの女性職員が機密を漏洩したのである。
NATOの機密にアクセスした西側女性職員は、あるロメオに騙され12年もの間に数千点もの秘密文書を漏洩した。彼女は逮捕後も「彼が自分を本当に愛していたのか知りたい」と固執したと伝えられている。
また、カトリック信徒の女性が、ロメオとの関係とスパイ行為への罪悪感から告解を望んだ際、シュタージは偽の神父を用意し「赦しを与えて安心させ、スパイ活動を続行させた」という逸話もある(7)。
(7)CIA『Romeo Spies』(2018)、Intel Today『One Year Ago- Sexpionage : Markus Wolf & His Romeo Spies』(2019)ほか
※本稿は、『謀略の技術-スパイが実践する籠絡(ヒュミント)の手法』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『謀略の技術-スパイが実践する籠絡(ヒュミント)の手法』(著:稲村悠/中央公論新社)
ソ連KGB、米陸軍や陸軍中野学校の資料やリーク情報などを読み解き、世界に共通するヒュミントの手口を明らかにする。
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組織人必読の一冊だ。




