「母のことは最後の修行をしている《妖怪》だと思って見守ろう、と考えたら楽になりました(笑)」

過去のことを引きずるから苦しいのだと気づいてからは、母のことは、「私を産んでくれただけで良しとしよう」と思えた。この歳になってやっと、わだかまりをなくすことができたのです。

こうした一連の流れがどう作用したのかわかりませんが、ある日を境に母が「ミリちゃん、ありがとう」と言ってくれるようになりました。あらゆる場面で「ありがとう、ありがとう」と。まさかの変化に、私は「奇跡が起きた」と思ったほどです。

それからしばらくして、母は歩けなくなり、本人から近くの特別養護老人ホームに入所したいと言われました。見学に行き、母が安心して過ごせる施設だったので、姉妹で話し合って決定。6年続いた母との同居生活が、ついに幕を下ろしたのです。

その後1年ほど、私は施設に通いました。24年3月5日、次第に弱ってきていた母の終末期についての打ち合わせが入っていた日。なぜかその朝、予定より早く顔を出そうと思い立って。あれは虫の知らせだったのでしょうか。

軽い気持ちで面会に行った私の手を握りながら、母は眠るようにスーッと息を引き取ったのです。とっても穏やかな死に顔で、私は泣きながら、「楽になってよかったね」と声をかけました。