パン業界のイノベーション合戦
日本から世界に広がった画期的な製法もあります。
小麦粉を熱湯でこねデンプンをα化させる「湯種」という手法。1998年に発売され、いまも日本でもっとも売れつづけている食パンであるPASCOの「超熟」にも使われます。デンプンのα化を進めるのは高加水と同じ原理で、食感はもちもち、味は甘くなります。
もとは宝塚の「パンネル」というパン屋さんが編み出したもの。粉もの文化のある関西では厚切りの食パンが好まれ、ベーカリーの競争は激烈で、進化はそんな風土から生みだされました。
いま新製法を生み出す最先端のパン職人は、志賀勝栄門下から多く現れています。
食パンの製法だと思われていた湯種をバゲットに用いて、もちもちの新食感で食べやすくしたのは、パン・デ・フィロゾフの榎本哲シェフ。バゲットなどハード系のパンに湯種を用いるのも近年、普通に行われるようになりました。加水を増やしてデンプンのα化を進めるため、翌日でもおいしく食べられます。
高加水のハード系パン「パンストック」によって、「硬くて酸っぱい」といわれる自家培養発酵種のパンを軟体動物みたいな驚きの新食感に変えたのは、志賀門下のひとりであるパンストックの平山哲生シェフ。福岡までわざわざパンを食べにいく人がいるほどの行列店です。