他人と競う必要がない

山登りに魅了されたもう一つの理由は、「他人と競う必要がない」ことです。

私はもともと、運動は大の苦手。体育が得意な生徒と一緒だったので、最初は少し不安でしたが、渡辺先生に「ゆっくりでいいからね」と言われて、気持ちがスーッと楽になりました。ひと足ごとに変わっていく風景を見ながら、ついに頂上に立ったときは、「やったー!」という思いでいっぱいでした。

『人生、山あり“時々”谷あり』(著:田部井淳子/潮出版社)

こんな高いところまで登ってきたという達成感。運動が苦手な自分でも山頂に立てたという満足感─―このときの感動が、「知らないところに行ってみたい」という私の好奇心に火を灯しました。

もし、初めての登山がつらく苦しいものだったら、私は山が嫌いになっていたでしょう。渡辺先生が山の魅力を教えてくれたからこそ、私は山と「出合う」ことができたのです。

田部井淳子
初めての登山。10歳のとき(右下が淳子さん)。担任の渡辺俊太郎先生に連れられて那須山系の茶臼岳、朝日岳に行ったときの写真(写真:『人生、山あり“時々”谷あり』より)