心の病
中学・高校時代も年に一回は近くの山に行っていましたが、本格的に山登りをするようになったのは、大学に入ってからのことです。
きっかけは、「心の病」でした。
福島県の三春町にある田村高校を卒業した後、東京の女子大に進学したのですが、心の中は「自分は田舎者だ」という劣等感でいっぱいでした。福島訛りが恥ずかしくてたまらず、人と話すことができなくなったのです。
決定的だったのは、5月の連休に、三春に帰省するときの出来事でした。渋谷のデパートでお土産を買おうと思い、「これ、ください」と言ったら、「あんた、福島なの」と店員さんに言われたのです。田舎者と思われたくない一心で、福島弁を使わないよう必死に努力していたのに、たった一言で福島出身だと知られてしまった。そのショックでノイローゼのような状態になり、食べ物ものどを通らないほど落ち込みました。
大学を休学して実家で過ごし、安達太良山の麓にある岳温泉で静養しました。一人で湯治するうちに気づいたのは、「大学に戻るのが一番楽な道」だということでした。3カ月ぶりに復学した私を、クラスメートは歓迎してくれました。そして、東京・奥多摩の「御岳山に行こうよ」と誘ってくれたのです。
御岳山に登ってみてびっくりしたのは、「山全体が森で覆われている」ということでした。それまでの経験から、山には高山植物が咲いているイメージがあったのですが、東京の山はそうではないらしい。また、東京はビルばかりの大都会だと思っていたので、「東京に山がある」こと自体も驚きでした。
さっそく、『東京周辺の山々』という本を買って読んでみると、都内には登山が楽しめる山がたくさんあることがわかりました。10歳のときに感じた好奇心に火がつき、友達と「次はこの山に行ってみよう」と計画しては、月1回のペースで山登りをするようになりました。