「父は文学や音楽が好きで、自分の誕生日には必ず5人それぞれに、《満何歳の父より》と書き添えた本をプレゼントしてくれました」(撮影:清水朝子)
母を看取り、子も独立して、ますます自由になったという大竹しのぶさん。60代後半となったいま、大切な家族との絆に思いを馳せ、役者としての挑戦を続けている(構成:篠藤ゆり 撮影:清水朝子)

食卓で語らう時間

役者を始めてから、いつの間にか50年以上経ちました。小学校の高学年でシェイクスピアの作品に出合って、その頃から戯曲というのは面白いなと思っていたんです。

私は5人きょうだいの4番目。わが家は決して裕福ではなかったけれど、父は文学や音楽が好きで、自分の誕生日には必ず5人それぞれに、「満何歳の父より」と書き添えた本をプレゼントしてくれました。

私が小学生のときは、浜田広介さんの童話や中勘助さんの『銀の匙』など。そこにシェイクスピアもあったのかな。中学時代には、竹山道雄さんの『ビルマの竪琴』や山本周五郎さんの本をもらいました。

音楽に関しても、たとえばベートーヴェンの交響曲を流しながらいろいろ解説してくれたり。そんなふうに食卓を囲んでご飯を食べる時間は学ぶ場でもあって、とても好きでした。それが戯曲への興味や役者の道につながっていったのかもしれません。

父は体が弱く、私が小学校1年のときに結核になり、20歳のときにがんで亡くなりました。10代でデビューして、2年間ほどですが、活躍を見てもらえてよかったなと思います。