日本人の主体性を育てることは大きなテーマだった
工藤 その活動の延長線上に、学園長への就任があるわけですね。
岡田 そうです。僕にとって、日本人の主体性を育てることはずっと大きなテーマでしたから。監督時代、海外の指導者から「日本人選手には主体性がない」と、耳にタコができるほど言われ続けてきました。監督やコーチから言われることはきちっとやるけど、自分の頭で判断できない。
1993年にJリーグができ、海外のチームで活躍する選手も増えて状況は改善されてきたものの、その根本は30年以上たった今も変わっていません。主体性のある選手、キャプテンシップを持ったリーダーと言える選手はなかなか育ってこないのです。
これは、サッカーなどのスポーツだけでなく日本社会全体の課題でもあります。ラグビー元日本代表監督の故・平尾誠二さんとは、よく二人で「自分で自分の人生を切り拓ける人を育てたい。スポーツから日本を変えていきたい」という話をしていました。だから、学校運営の話をいただいた時も、それを実現する学校を作れたらいいなと思っていたのです。
※本稿は、『THE CAPTAINSHIP(ザ・キャプテンシップ):絶望を希望に変えるシン・リーダー論』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。
「キャプテンシップ」とは、従来のトップダウン型・ボトムアップ型を超え、仲間と共に並走しながら進む新しいリーダーシップの形。
本書は、サッカー日本代表監督として数々の偉業を成し遂げ、現在愛媛・今治の地で新しい「教育×地方創生」の形に挑戦する岡田武史氏と、岡田氏と共に教育現場の最前線でリーダー教育に努める工藤勇一氏が、二人の経験と試行錯誤を通じて到達した「不確実な時代に求められるリーダー像」について語り合います。
出典=『THE CAPTAINSHIP(ザ・キャプテンシップ):絶望を希望に変えるシン・リーダー論』(著:岡田武史、工藤勇一/実務教育出版)
岡田武史
株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長、FC今治高等学校里山校 学園長
1956年大阪府大阪市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、古河電気工業株式会社に入社。1997年FIFAワールドカップフランス大会の本戦初出場を果たし、Jリーグ コンサドーレ札幌監督、横浜F・マリノス監督を歴任し、2010年FIFAワールドカップ南アフリカ大会ではチームをベスト16に導く。中国スーパーリーグ杭州緑城でも指揮を執り、その後2019年には日本サッカー殿堂入りを果たし、2022年、日本サッカー協会副会長に再任。現在は愛媛県今治市を拠点とし、サッカークラブFC今治の運営会社、株式会社今治.夢スポーツの代表取締役会長として「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会づくりに貢献する」を企業理念として、サッカー事業だけでなく自然体験の環境教育事業、学生主導のワークショップなどさまざまな分野で活動している。2024年4月開校の「FC 今治高等学校里山校(FCI)」の学園長に就任し、未来を担うヒストリック・キャプテンの育成を目指している。『岡田メソッド』(英治出版)ほか著書多数。
工藤勇一
FC今治高等学校里山校 エグゼクティブコーチ、元横浜創英中学・高等学校校長
1960年山形県生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から千代田区立麹町中学校長として宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。初の著書『学校の「当たり前」をやめた。』がベストセラーに。教育再生実行会議委員、内閣府 規制改革推進会議専門委員、経済産業省 産業構造審議会臨時委員など、公職を歴任。『麹町中学校の型破り校長 非常識な教え』『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史氏との共著)、『子どもたちに民主主義を教えよう』(苫野一徳氏との共著)など著書多数。