2023年は煮干ラーメン屋にとって最悪の状況に

「2023年が大不漁で一気に値上がりし、価格がそのまま据え置かれているのが現状です。

煮干しの漁期というのは地域ごとにバラバラになります。年明けや新年度を起点としますと、2月頃から獲れる長崎(平戸)で全く獲れず、3月頃からの九十九里では平子ばかり獲れて片口鰯(かたくちいわし)が獲れず、その流れで6月から天井知らずの高騰に繋がりました。

瀬戸内は言うほど不漁ではなかったのですが、煮干しの品自体は少なく、エンドユーザー(ラーメン店他)には手の届かない価格になってしまいました。

こうして2023年は煮干ラーメン屋さんにとっては最悪の状況になりました」(鈴木さん)

煮干しに限らず厳選素材でスープを仕上げるお店にとっては、その食材の高騰がダイレクトに原価率を左右してしまう。代替できる食材があれば良いが、厳選素材が味の特徴になっている場合においてはそれが厳しい。さらには、昨今の有名店においては、スープのダシ感を分厚くするために食材を大量に投入するお店も多く、食材の原価によって大きなダメージを喰らってしまうケースが多く発生している。

2024年にオープンした人気店「奈つやの中華そば」は、目黒・不動前で間借り営業をしていた時期に、煮干しが不漁で手に入らなくなり、中華そばが提供できなくなったことがある。

脂ののった煮干しの旨味が特徴の一杯なだけに、その種類にもとことんこだわっていた。煮干しの種類を変えることは難しく、中華そばの提供を断念した店主は、お店を一週間休んでつけそばを開発して提供を始めたというエピソードがある。

※本稿は、『ラーメン一杯いくらが正解なのか』 (ハヤカワ新書) の一部を再編集したものです。

【関連記事】
かつて<麺まで自分で作らないとラーメン屋とは言えない>とよく言われたが、今や…ラーメンライター「結局はトータルでその一杯が美味しいかどうか」
止まらない<ラーメン店の倒産>。従業員不足に後継者問題、そして最大の壁が…ラーメンライター「今後も価格の見直しは避けられない」
川田利明が経営するラーメン屋の今。「物価高で固定費が1.5倍に。両替の手数料まで…工夫のしようがないからみんな潰れている」【2024年下半期ベスト】

ドキュメント クマから逃げのびた人々』(著:風来堂/三才ブックス)

人間がまともに戦えばほぼ勝ち目のない動物、クマ。

襲われた当事者の生の声を聞く、衝撃のノンフィクション