救出オペラの代表
1770年にドイツのボンで生まれたベートーヴェンは、オペラ作曲に意欲的かつ野心的であった。けれども、ベートーヴェンはたびたび作品をボツにしたから、結局、その生涯でものになったのは、「フィデリオ」1作のみである。
「フィデリオ」は救出オペラの代表のようにいわれる。絶体絶命の窮地に陥った主人公や恋人が最後には救われるという、大逆転劇のスリリングなオペラを「救出オペラ」という。「フィデリオ」では、女主人公レオノーレが「フィデリオ」という名で男性に変装して監獄に潜入し、無実の罪で処刑されそうになった夫フロレスタンを、間一髪のところで救い出す物語で、観る者にカタルシスを準備している。
たしかに「フィデリオ」は、古今の名オペラに挙げられる。聴かせどころがあり、フィナーレに向けては盛り上がる。
けれども、舞台のほとんどが監獄で、華やかな服装の女性が出てくるわけでもない。動きに乏しく、ともすると重苦しさが支配しがちなオペラであることも否めない。ベートーヴェンの音楽の重厚さが、裏目に出ているともいえる。
そのためか、「フィデリオ」は現代のヨーロッパではそれほど人気がない。ドイツの歌劇場では上演されても、フランスやイタリアでの上演は本当に少ない。ドイツ人は「フィデリオ」をドイツ・オペラとして愛する一方、他の地域の人にとっては、いくら名作とわかっていても、どこか辛気臭いオペラは観たくないというのが本音ではなかろうか。
